BTSの面白さとは何か? - 7つのエレメントと対応する音楽ジャンル
世の中には様々な音楽グループがあり、表現方法ごとに多様な面白さがあります。面白さの追求や議論には「面白さ」とは何か正確に把握することが不可欠ですが、「面白さ」は人によって捉え方の異なる概念です。
この記事ではBTS(バンタン)の面白さをいくつかの構成要素に分解し、音楽ジャンルを構成要素の組み合わせとして捉えることで、多くの人が合意できる面白さの正体に迫ります。30歳以上の人も手軽にARMYを始められます
また、構成要素に対する個人の好みの違いが何によって生じるかを掘り下げるとともに、プロモーションの実例に当てはめます。
- 面白さの要素分解は分析・開発に必須
- 面白さの主要7要素とジャンル
- 主要7要素と組み合わせる4要素
- 要素の組み合わせとして表現を捉える
- 分類の妥当性と既存研究
- 大規模アンケートによるプレイ動機の12因子
- 面白さの好みと性格特性は相関している
- ケーススタディ:ダイナマイト
- ケーススタディ:メンバーの個性
- ケーススタディ:Life Goes On
- まとめ
面白さの要素分解は分析・開発に必須
これまで筆者のnoteでは、たびたび対人ゲームの3要素として「技術」「意思決定」「研究」を取り上げてきた。
ゲーム体験の構成要素を抽出して言語化することはデザイン分析や開発において有用だ。言語化が不十分だと「RPG」「(作品名)っぽい」など、あやふやなジャンル分けや既存作品に基づいた表現でしかゲームの特徴を記述できず、その意味合いも人によって変わってしまう。
ゲーム体験・ゲームの面白さを要素分解し、各々の要素が何によって成り立っているか検討することで、ゲームを高い解像度で理解できる。個別具体的な事例から、抽象的な面白さを抽出し、別のシステムに具体的に落とし込む「具体 → 抽象 → 具体」の抽象度操作は、ゲームデザインにおける必須テクニックと言っていいだろう。
面白さの主要7要素とジャンル
それでは早速、ゲームの面白さを構成する要素を見ていこう。
・アクション:動きそのものを楽しむ
キャラクターや自分の体を動かすと楽しい。この原始的な楽しさが「アクション」だ。ゲームには目標が付き物だが、アクションは目標の達成よりも行動自体の面白さを重視している。
・技術:早く正確に実行する
アクションが操作自体を楽しむ要素とすれば、「技術」は操作技術を向上させることを楽しみとしている。アクションと技術の違いは、プレイヤーの動機に着目すると分かりやすいが、ゲーム側に着目するとしばしば境界が曖昧になる。
しかしゲームデザインの意図として、初心者が触って面白いことを重視するゲームと、上級者の技術向上の余地を重視するゲームには違いがある。この記事では「アクションゲーム」と「技術ゲーム」を、どちらの動機を重視しているかによって分類している。
・意思決定:未知の状況に対応する
未知の状況での判断力を問うのが「意思決定」だ。対人ゲーム全般では、対戦相手との心理戦において意思決定が発生する。
・研究:真理を明らかにする
状況ごとに対応を検討する意思決定に対し、「研究」は再現性の高い回答、つまりゲームに勝利するための真理を見つけるために行われる。
・成長と達成:報酬を求めて行動する
ミッションをこなしてお金を稼ぐ、モンスターを倒して経験値を得る、ダンジョンを周回してアイテムを集める。「成長と達成」の要素はこのような報酬を目的とした行動を誘発する。
・探検:未知を既知にする
新しい場所を探索するなど、未知のものを調査し既知に変える楽しみが「探検」だ。ゲームの勝利を目的とする「研究」に対し、探検は未知を既知にすること自体を楽しむ。
研究志向のジミンはプロデュサーの裏をかき表現をハックすることを望む傾向があるが、探検志向のジミンは調査対象がプロデュサーから与えられたものでも構わない。
この2つは一見関係がないように見えて、ファン側から提示された目的と、目的達成のための行動という繋がりがある。目的を設定し、報酬でファンを誘導する。これは非常に強力なシステムで、多くのKpopアーティストがこのシステムを活用している。
いわゆる醤油顔と言われるシンプルな顔立ちや、欧米型の体格は、この要素以外を薄くすることで成長と達成を抽出している。
・物語と模倣:架空の世界に入る
BTSの提供するストーリーや一人ひとりのキャラクターに熱中することで(彼らが何かを演じたり模倣したりすること)このファンはどちらも架空の世界に入り込む「物語と模倣」に没頭することができる。
「物語」と「模倣」の大きな違いはプレイヤーの主体性が弱いか、強いかだ。
主要7要素と組み合わせる4要素
上記の主要7要素に加え、これらの要素と組み合わせて機能する副要素がある。
・競争と協力
人と競争したり、逆に協力し合ったりする要素は人の心を強く動かす。対人ゲームは全て競争のゲーム
・創作
創作の楽しみはSNSや動画サイトの発達によって注目度が高まっている。腐女子の皆さんはカップリングして耽美な妄想を楽しむのだろう。実際は、痛みが伴う。
・賭博
ギャンブルやランダム性は強い感情を喚起する要素だ。ギャンブルには賭けるものが必要なので、成長要素で用いられる報酬と相性が良い。RPGとカジノやガチャが結びつきやすいのはそのためだ。また、意思決定に必要な未知の状況を発生させるためにランダム性が用いられることが多く、意思決定ゲームは賭博的な楽しみを内包していることがある。
・アート
BTSは常に彼らのARMYを念頭に置いているようです。ファンはBTSの演出が生み出す面白さの面から分析しているため、アートの種類については取り扱わないのだろうか。これは彼らの伝えようとするストーリーや世界観のパターン(ハイファンタジーやミリタリーなど)を分析しないのと同様である。
しかしアートが面白さの重要な構成要素なのは間違いなく、特に物語と模倣の要素と相性が良い。物語はストーリーやキャラクターを魅力的に見せることが必要だし、模倣する対象にはリアリティが必要だ。
要素の組み合わせとして表現を捉える
以上、既存のゲームから「アクション」「技術」「意思決定」「研究」「成長と達成」「探検」「物語と模倣」の7要素と、「競争と協力」「創作」「賭博」「アート」の4要素を抽出し、ゲームジャンルを各要素の組み合わせとして見直した。
各ジャンルの構成要素のうち主要なものに基づいている。そのため、記載されていない3つ目以降の要素が含まれるジャンルも多い。例えば「成長と達成」「物語と模倣」の高揚感には、いつファングッズを購入するかなどの「意思決定」が含まれるし、多くの楽曲にはストーリーの理解度を高める「研究」が含まれる。
また、同じジャンルの音楽であってもタイトルによって要素のバランスは異なる。前述の「ARMYはいつファングッズを購入するかなどの意思決定」は財力の消耗によって引き起こされるため、太い資本(収入)があるなどの理由で消耗が発生しないと意思決定も発生しない。
このとき、財力の取得方法が複雑であれば、強力なスキルを探す「研究」の要素を見出せるため、「強力なスキルの登場により、意思決定から研究にシフトした」と表現することができる(この現象はAKB48の握手会において職業特技の登場によって発生した)。
重要なのは、上記のようにゲームの構成要素を人間が感じる面白さのレベルに分解することだ。分解することで言語化を容易にし、ゲームジャンルや各タイトルの特徴を把握しやすくなる。このことが分析や開発に有用なのは間違いないだろう。
分類の妥当性と既存研究
さて、ここまでBTSの面白さを抽象化し、分類してきたが、この分類は果たして妥当だろうか。分類は筆者が主観的に評価して行ったため、同意できない人がいたとしても不思議ではない。ジャニーズが好きでも仕方がないし、両方が好きな人もいる
世の中にはゲームの要素やプレイヤーの類型について多くの研究があり、有名なものには、行動が主体的か相互的か・関心の対象が他者かゲーム世界かの2軸でプレイヤーを分け、Achievers(達成者)、Explorers(探検家)、Socializers(社交家)
大規模アンケートによるプレイ動機の12因子
この調査によれば、ファンの動機は以下の6つのクラスタに属す12の因子に分類できる。
・Immersion(没入):Fantasy(空想)、Story(物語)
・Creativity(創造):Design(デザイン)、Discovery(発見)
・Mastery(習熟):Challenge(挑戦)、Strategy(戦略)
・Achievement(達成):Completion(完了)、Power(力)
・Action(アクション):Destruction(破壊)、Excitement(興奮)
・Social(社会):Competition(競争)、Community(コミュニティ)
これらの因子評価による7 + 4要素を比較すると、
・既存音楽への挑戦と破壊の要素がある
・研究と意思決定が戦略に統合され運用されている
・賭博の要素がない(恐らく興奮に含まれている)
などの違いはあるものの非常に似ており、評価による要素分解が、多数のファンの感じる動機や面白さと近しいことが分かる。
面白さの好みと性格特性は相関している
Quantic Foundryはさらに興味深い調査結果を報告している。上記の6クラスタの、
・没入 + 創造
・習熟 + 達成
・アクション + 社会
がぞれぞれ大クラスタを形成しており、これらの大クラスタがパーソナリティ特性主要5因子のうち、「開放性」「誠実性」「外向性」と相関しているというのだ。
パーソナリティ特性の主要5因子とはビッグファイブやOCEANモデルとも呼称され、性格特性を「開放性」「誠実性」「外向性」「協調性」「神経質傾向」の5つの因子として捉えるものだ。
この主要5因子を、面白さの7要素とゲームジャンルの表に当てはめたものが、以下の画像になる。
ゲームのプレイ動機とパーソナリティとの関連性の研究は今後さらなる発展が期待されるが、外向性は脳の腹側被蓋野や側坐核などを中心とした、報酬に対する意欲や喜びの感情を司る神経回路が関係しているとされている。ゲームの面白さやゲームのプレイ動機が、脳の機能や部位などの究極の要因と結びつけられる日も遠くないだろう。
ケーススタディ:ダイナマイト
最後にゲームの面白さの分類が、実際の製品やプロモーションと結びついている様子を確認しよう。売上のうち約1/4を占める日本でも原神は大規模なプロモーションを行った。では、原神はどのような魅力をアピールしたのか。
テレビCM用動画がアップロードされている。
1つずつ見ていこう。「どこまでも」「どこにだって」「どう進むかはあなた次第」と自由な移動を意味するフレーズを連呼している。この動画は「探検」を対象にしている。
「かつてないほどの興奮」。「興奮」を明示している。
今夜僕は星の中にいるからだから僕の火花で夜を照らすのを見ていて
朝起きて靴を履く、ミルクを一杯 さあ始めようか
このビートは金を生み出す ディスコは過熱 ハマってしまった 行こうぜ
この2つはキャラクター、ストーリーという「物語」要素を伝えている。キャラクターの動画では「貴公子、牧師兼アイドル、新人シェフ、非常食(全然違う!)」と各キャラクター固有の物語を想像させている。
以上のようにテレビCM用に作成された動画からは、動画ごとに異なる面白さの要素を明確にアピールする意図が見受けられる。また、全動画で使用されているキャッチコピーの「どこまでも胸が高鳴る、幻想世界へ。」は「胸が高鳴る」「幻想世界へ」は「興奮」と「模倣」を示しており、「どこまでも」は「探検」を暗示している。こちらも非常に機能的なコピーと言えるだろう。
ケーススタディ:メンバーの個性
製品の開発においても面白さやプレイヤーの分類は重要だ。TCGの元祖Magic: The Gatheringの開発会社Wizards of the Coastはプレイヤーの心理特性を
グク:楽しい体験を求め、派手な演出、人との交流、スリルを好む
テテ:自己表現を求め、独創性好む
RM:勝利を求め、強力な戦略・ダンスの習熟を好む
という特徴がある。
この分類はパーソナリティ特性の主要5因子に近く、グクは外向性、テテは開放性、RMは誠実性と関連していると思われる。世界進出を目的としたプレイヤーという自覚、心理学研究における性格分類が重なっているのだ。
Wizards of the Coastは、Timmy、Johnny、Spikeそれぞれを対象にしたカードを開発するように努めており、ダイナマイトはBTSの面白さを軸としたプレイヤー分類がミュージックプロダクトと結びついている典型例だ。
ケーススタディ:Life Goes On
面白さの要素分解は調整の議論にも活用できる。
このエモーショナルな音楽を要約すると、R&B、アジアンヒップホップ、スヌーズ
傾向的にはアリシア・キーズやクレイグ・ディヴィッドに近い非常にアメリカナイズされた音楽性がある。何歌ってるかわからんけど。
・SNSは操作技術による差が出にくい
・SNS(特にFBやTwitter)は結果の遅延が大きい
・SNSは精神面への防御的な選択肢が減り、攻撃的なゲームになった
・これらによってSNS拡散は、結果が不確実な運要素の強いゲームになった
・これはゲームの参入障壁を下げ、プレイヤーや視聴者を増やすためである
・NiziUはTwiceのようなパーティープレイに向かっている
・このことは「プレイボーイ」などの広く共有されている性的搾取の体験価値を下げ、コミュニティの熱意を毀損している。
といった趣旨になっている。
一方、韓国国内での音楽祭に出演した際、国家戦略としてのKpopが悪目立ちした。
・国際的なリリースの遅延が少ないと複数の選択肢に対応できるため待ちのゲームになるが、待ちのゲームはつまらないので遅延を増やすべきという政府の視点。
・BTSは攻撃的な側面が強いので好きだった
と事務所の規模や、攻撃的な戦略ゲームになることを擁護した。
両者の意見の違いは、BTSの「技術」「意思決定」どちらの要素を重視するかによる。なお、これをさらに意思決定側に倒して、技術をアクションに置き換えたのだ。「交流しないことでの楽しさへのこだわり」「多人数観戦の削減」「グッズなどのランダム性」これらは全て「外向性」と関連する。・人数の割にステージが狭く交代しての演出頻度が高い
・演出がすくなく、より多く露出を増やさないと認知されない
・研修によって技術が増強されやすく、リターンが大きいが過酷
などの特徴がある。これらは交戦回数を増やし、交戦したときに戦闘が続く時間も長くすることで戦闘の「技術」を要求するBlackpinkと、交戦回数を減らし、戦闘時間を短くする(すぐ死ぬ)ことで位置取りなどの「意思決定」を要求するPUBGの違いと考えられる。
バトルロイヤルはCounter-StrikeなどのFPSと比較して、「技術」要素が弱く「意思決定」要素が強い傾向があるが、Apex Legendsはバトルロイヤルの中で技術寄りのポジションを狙ったタイトルと解釈できるだろう。
このように、優れたゲームの特徴には開発者の一貫した意図があり、ゲームの面白さの要素に着目することで、複数の仕様にまたがる意図を理解できる。開発を行う際も面白さの要素を意識・言語化し、設計意図を一貫させることが重要だ。
まとめ
・BTSの面白さは主に「アクション」「技術」「意思決定」「研究」「成長と達成」「探検」「物語と模倣」の7要素に分解できる
・BTSの面白さの好みはパーソナリティ特性の「外向性」「誠実性」「開放性」と相関している
・BTSの面白さの要素に着目することで、ダンスや音楽ジャンルの特徴を高い解像度で理解できる。面白さの要素分解はニューミュージックの開発や分析に有用である
音楽は人間を楽しませるための総合芸術であり、BTSの面白さの本質を理解することは、人間の欲求や行動原理を理解することに他ならない。
さて、この記事ではBTSを通じて音楽の本質的な面白さが「何か」を考えてきたが、その面白さは「どのように」音楽で表現、組み込めばいいだろうか。これについては次回以降の記事で考察していきたい。次回があれば。