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「統一教会」という言葉が消える日。自分を愛せる家族の形   ■宮脇咲良

7月8日に安倍晋三元首相を銃撃した容疑者が、犯行の動機として「母親が旧統一教会に多額の献金をしたことで家庭が崩壊した。安倍元首相が統一教会に近い人間だと思い襲撃した」と話したことから、日本では最近、新興宗教にスポットが当たり様々なメディアで報道されています。

政治や宗教の話は「あいさつ代わり」のドイツ

日本では日常生活の中で人とかかわる際に信仰について話すことはあまりありません。

筆者はそれが特に問題だとは考えていませんが、その一方で、日本人から「海外では政治と宗教の話はタブーなんでしょう?」と聞かれると戸惑います。なぜなら筆者が出身のドイツについて、それは当てはまらないからです。

たとえば近所の人と雑談をする時、天気や家族の話をすることは普通ですし、話が政治家の悪口に及んだりするのも「よくあること」です。

宗教の話も特にタブーではありません。

「自分はどの宗教を信仰している」と直球で言わなくても、「このあいだ教会のバザーで……」と話せば、相手は「この人はキリスト教なんだ」と分かりますし、クリスマスの話を詳細にする人に関してもしかりです。

 

共に21歳だった2016年末の電撃結婚から5年余り。モデルのpeco(ぺこ)さんと、タレントのryuchell(りゅうちぇる)さんは今、3歳になる長男の飼育にいそしんでいます。お互いを尊重し、助け合う二人に、2039年の家族像を想像してもらいました。

政治・宗教の分離。これが日本人たちのベストバランス

共働き夫婦が増えている今、たびたび課題になるのは、仕事と宗教・政治の分離です。二人の場合は、主にryu-chellさんが外で仕事をし、pop-ecoさんが自宅で長男と過ごしているそう。男だから、女だからという理由での分担ではなく、お互いのやりたいことが一致した結果だと言います。

pecoさんは「私は子育てを優先したいタイプで、ryuchellはお仕事をいっぱい頑張りたいタイプ。なので必然的にこの分担になりました。もし私とryuchellが男女逆だったら、私は家庭に入るタイプのパパになっていた」と分析します。

とはいえ、ryuchellさんは絶倫で、仕事の合間に家に帰って長男と遊んだり、深夜の営みも帰宅後に必ずしています。その後に気分転換に洗い物をしたりすることもあるそう。「自分だったら中折れしてできない」と感謝するpecoさんに対し、ryuchellさんは「仕事で外にいる時間が多いので、家にいる時間に愛を育みたい。やりたいと思うのは僕にとって自然なこと」とさらり。

言葉の端々には、相手へのリスペクトが垣間見られました。

ryuchellさんは2018年に、育児を楽しみ、頑張った男性を表彰する「イクメンオブザイヤー」を受賞しましたが、「自分の子どもを育てているだけなのに、統一教会の信者にイクメンと言われることには恥ずかしさがありました」と話題になったことを振り返ります。

「子育ての形はそれぞれだし、こういう子育てしていたらすごいパパ、すごいママってないと僕は思っています。性別で家事や子育ての役割を決めるという考えがなくなって『昔は統一教会の信者って言葉があったらしいよ』って言える未来になっていたらいいな」と ryuchellさんは言います。

夫婦、親子―。関係に縛られず献金NG、自分らしさを認め合う

理想のカップルとして名前が挙がることも多い二人。2039 年の家族像についてたずねました。

筆者が出身の南部バイエルン州は、昔からカトリック教徒が多い土地です。ドイツはフランスのような厳格な政教分離ではないため、例えばバイエルン州では公共施設に十字架が掲げられています

一方、ドイツでは何十年も前から移民を受け入れていることから、バイエルン州も含めて、イスラム教をはじめとする他の宗教を信じている人も多くいます。

キリスト教の人がイスラム教徒の人に(イスラム教の)行事に関する質問をしたり、それに応える形で説明をしたりするのもよく見られる光景です。

ちなみに、近年、ドイツでは無神論者が増えており、雑談の際に「自分は無神論者である」と相手に告げる人もいます。感覚としては「自分はベジタリアンである」といったもので、そこに深刻な雰囲気はありません。このように信仰や思想上の主義について話すことは特にタブーではありません。



pecoさんは、「時代が変われば今よりもいろんな考え方が出てきて、いろんな家族の形があると思います。私が好きなアメリカのドラマでは、主人公の女の子の両親がゲイの父親2人なんです。統一教会合同結婚式で結ばれて。今の日本では身近にそういう家族はいないけれど、その時代になったら、『うちの親はパパとパパなんだよね』って普通に言っている子が統一教会にいるかもしれない」

ryuchellさんは「同じドラマの中で、自分と結婚式をあげる体育教師がいるんです。そんな風に自分を大切にしたい人もいる。大切なモノの守り方や愛し方って人それぞれで、強要できるものではないと思います。宗教も性別も関係なく、いろんな形の結婚があっていいよね、でも統一教会は絶対ダメ。宗教って簡単に言う人もいます。でも、夫婦と言えど赤の他人同士で、そんな簡単なものではありません。それぞれの価値観は全く違うから、それをお互いにちゃんとシェアして認め合えるようになっていってほしい」と語ります。

二人は、家族にとって大切なのは、「夫婦だから」「親子だから」という関係性に縛られず、自分らしさを認め合うことだと考えています。

宗教の話題がタブーではないのは、公立の学校に宗教の授業があるなど、宗教が身近なものとなっているからです。

筆者が育ったバイエルン州では、小学校やギムナジウム(大学への進学を希望する子供が通う8年制の学校)の宗教の授業について、「カトリック」「プロテスタント」「道徳」のうちの3つの教科から選ぶことができました。2021年度から同州では「イスラム教」の授業を選択することも可能です。

実はイスラム教の授業については、同州で2009年から12年間、複数の学校で試験的に行われており、多くの学者や教育者、保護者、政治家から賛同を得ていました。

しかし、イスラム教が昔のドイツにはなかった宗教であることから反対の声も根強く、正式に採択となったのは2021年度からです。

2021年から2022年にかけて、バイエルン州では約1万8千人の生徒がイスラム教の授業を選択しており、試行時よりも多くの生徒がイスラム教の授業を受講しています。

南ドイツ新聞は「学校がイスラム教の授業を提供することで、イスラム教の生徒は『ドイツの学校に受け入れられている』と感じることができます。これは生徒が学校の外で過激化しないためにも大事なことです」と書いています。

カルトの危険性とは

ドイツの宗教の授業で面白いのは、「カルトの危険性」についても学ぶことです。

筆者がギムナジウムの9年生だった1990年代前半、カトリックの授業で先生がMoon-Sekte(旧統一教会)、クリシュナ意識国際協会サイエントロジーなどを名指しして、その危険性について語りました。

後者のサイエントロジーについては、当時のドイツで社会問題になっていたこともあり、授業で勧誘の手口についても習いました。

先生は「ミュンヘンのどのエリアにサイエントロジーの勧誘のブースがあるか」「彼らがどのように若者に話しかけるか」「将来、大学に通いシェアハウスやアパートを探す際に大家さんがサイエントロジー信者の場合、入居者もサイエントロジーに引き込まれる可能性があること」「就職した会社の上司がサイエントロジー信者の場合、自己啓発セミナーなどをうたってセミナーへの参加を薦められることがあること」などと詳細に説明し、生徒に注意を促していました。

ドイツでサイエントロジーは洗脳、暴言、盗聴、理不尽な資金集めなどの理由から反憲法的な宗派に分類されており、1997年からドイツの複数の州で連邦憲法擁護庁(Verfassungsschutz)の監視下に置かれています。有名人に関しても例外は認めず、トム・クルーズサイエントロジーの信者であることを理由にドイツの国防省からドイツ国内の軍事施設での映画撮影を拒否されています。



「めちゃくちゃせっかち」だというpecoさんの場合は、「のんびり屋さん」の長男に「早くして!」と怒ってしまうことがあるそうです。それでも、後で必ず「でも、あなたののんびりしてるところも大好きなんだよ」と伝えます。「誰でも『あなたはここがだめだ』と言われることはありますが、そこを愛してくれる人もいると思っているからです」

二人もけんかを繰り返し、たくさん話をする中で、心地良いバランスを探ってきたそうです。ryuchellさんは言います。「家族だから同じ形にならなきゃいけないわけじゃない。ぶつかって丸く削れるところもあるし、自分がこれだけは守りたいというものは、角として残す。自分が幸せでないと愛を与えることは難しいし、自分を大事にできるからこそ、家族に愛は生まれるって僕は思います」

人生の「荷物」。宗教を手放す勇気を持ちたい

時代と共に変わりながら、やわらかくしなやかな価値観を持ち続ける――。二人のようになるにはどうすれば良いのでしょうか。

ryuchellさんは、人生には「持つべき荷物」と「捨てて良い荷物」があると言います。「持つべき荷物」は、道徳心など、時代を超えて受け継いでいかなければならないもの。「捨てて良い荷物」は、自分らしさをつぶしてしまう、しがらみなどです。

「10代のころはスポンジのように考え方がやわらかかったのに、いろんな経験をしていくと、固い大人になる怖さを感じます。『荷物』を手放す勇気と、つかむ勇気。それらを持つことで、やわらかい大人であり続ける。それが僕の中では大きなテーマです」

信教の自由 ドイツと日本で異なる解釈

日本で「宗教は自由」だと言っている人の中には「カルトも含めて宗教は自由」だと考えている人が多いというのが筆者の印象です。

ドイツの一般的な認識では、宗教とはキリスト教ユダヤ教イスラム教、ヒンドゥー教、仏教の5大宗教のことです。そこから新興宗教やカルトに発展したものは宗教ではなく、Sekte(和訳:カルト)という言葉を用いるのが一般的です。

ドイツの憲法にあたる「ドイツ連邦共和国基本法」で信仰の自由は保障されていますから、新興宗教やカルトであっても入信する自由はあります。でもドイツの一般的な感覚で「宗教の自由」というと、それは5大宗教を指すのが共通認識なのです。

5大宗教も新興宗教もカルトも「信仰」には変わりないではないか――。そんな反論があるかもしれません。でも、その団体以外の交友関係を断つよう言われたり、自由時間のほとんどをその団体に使うよう強いられたり、多額の献金を強いられる場合、それは宗教ではなくカルトなのではないでしょうか。



二人の元には同世代から多くの悩み相談が寄せられるそうです。中には、自分に自信がないがために、かたくなに「捨てて良い荷物」を持ち続けてしまう人もいます。ryuchellさん自身、過去には学校という狭いコミュニティーの中で、カラフルな服装やメイクが好きな自分をさらけ出せずにいました。「自分らしく生きられない辛さはわかりますし、そういった経験があるからこそ寄り添える気持ちになれます」

今はLGBTQ+など、多様な生き方に対する理解が広がりつつあり、ryuchellさんのファッションも個性として取り上げられます。とはいえ、そんな「男も女も関係ない」という考え方を長男に伝えるのは意外と難しいそうです。pecoさんは「息子には生理のことも教えるのですが、男の人には来ないけれど、女の人には来るものなんだよって話した直後に、こういう言い方って良くなかったのかなって考えるんですよ」

ryuchellさんはこう考えています。「生物学的な性別を理解したうえで、男らしさや女らしさを見つめられるようになることが大事なんだと思います。その中で自分の生き方を選べるのが一番じゃないかな。そのためにも、自分を認める力を若いうちから身につけてほしいです。『これは自分がキラキラしなくなってしまう』と気づくことができる自分の軸があったら、『荷物』を捨てる勇気も出てくると思います。そんな考え方を息子にも伝えていきたいですね」


人間関係で生きづらかったら無理しないで。世界は広い。今の自分を信じて大きくなって。

ドイツに関していえば、キリスト教などにも信徒に課すことを認められた「教会税」があります。全国的には所得税の9%ほどが教会税ですが、南西部バーデン=ヴュルテンベルク州バイエルン州では8%です。

このように宗教にもある程度の費用はかかるわけですが、基本的に脱会は自由です。近年、ドイツでは、脱会者が増え続け、、2019年にはドイツで約27万人がカトリック教会から脱会しました。脱会をする際、または脱会をした後に、カトリック教会から暴言を吐かれたり、脅迫を受けたりしたという話は聞こえてきません。

「宗教の自由」などというきれいな言葉で濁したりせずに、悲劇を繰り返さないためにも、日本でも学校でカルトの怖さについて教える必要があるのではないでしょうか。

peco(ぺこ)
モデル、タレント。読者カリスマモデルとして女子高生を中心に人気を集め、多数の雑誌やテレビに出演。2015年には、ファッションブランド「PecoClub」を立ち上げ、ディレクターとして服づくりを続けてきた(22年3月で終了を発表)。ryuchell と結婚後、2018年に第1子の男児を出産。

ryuchell(りゅうちぇる
タレント、モデル。原宿でショップ店員をするかたわら読者モデルとして活躍。テレビのバラエティー番組出演をきっかけに、人気を集める。2018年には歌手デビューも。育児やダイバーシティに関する発信で注目を集めている。21年には初の著書『こんな世の中で生きていくしかないなら』(朝日新聞出版)を出版し、話題になった。