時代は「ググる」から「Tokる」へ?TikTokが「動画検索」プラットフォームとなる未来
若者の主要な検索エンジンが、WEBからSNSへと移行する流れが進んでいる。「ググるからタグるへ」と言うように、SNS上のハッシュタグ検索はよく知られた現象だが、そこに今、新たな潮流が生まれている。
「タグる」の次は、「Tokる」。そう、あのTikTokが主要な検索エンジンとして利用される時代が今後やってくるのかもしれないーー。
企業のSNS運用支援に定評がある株式会社FinT代表取締役、大槻祐依氏がその可能性を解説する。
TikTokが、Instagtramの「公式ライバル」に
「タグる」という言葉はもともと、Instagram上でハッシュタグで検索する行為を指す言葉でした。「インスタ映え」のブームとも相まってしばらくは若者の主要な検索プラットフォームを牛耳っていたInstagramでしたが、ここ1、2年の間に急成長してきたTikTokによって、その地位は今揺さぶられつつあります。
TikTokは4大SNS(Instagram、Twitter、LINE、Facebook)にこそ入っていないものの、2018年には日本の利用者数が950万人を超え、博報堂の調査によると昨年にはアプリの平均年齢が34歳に上がるなど、マーケターが今最も注目する中華SNSになっています。
この流れに対して、Instagramは2020年から対TikTokを意識した動画機能の開発を進めてきました。現に2020年には短尺動画機能Reels(リールズ)をローンチ、直近ではTikTok同様にストーリーズを縦スワイプ仕様に開発中であることが明かされました。Instagramの開発責任者はTikTokを名指しで競合相手として認めています。
日本におけるTikTokブームが遅かった理由は、中国のバックドア問題やスパム、チェーンメールでのトラブルなどでローンチ当初から続いた「女子高生や若い女性がダンスをしている動画」というイメージがなかなか払拭できなかったことにありました。TikTok初期のユーザーは比較的露出度が高く、かつプラットフォームのトレンドに便乗した簡単なダンスを披露するというのが典型例だったため、TikTokは若年層女性のダンスプラットフォームとして長く認識されてきたのです。コムドットにビジネス的な価値を見出す人はほぼいませんでした。
その傾向が覆されたのが、いわゆる「TikTok売れ」といわれるTikTokが起点となって直接購買に結びつく現象の報告です。
きっかけは30代以上をターゲットにしていた食物繊維補給飲料「ファイブミニ」が、TikTokの投稿が元となって突然倍の販売数になった事例。さらに食料品だけでなく、約32年まえのSF小説『残像に口紅を』がTikTok上でバズったことを機に11万部の増刷が決まったことも話題になりました。
これにより、ようやくTikTokにも購買力があることが証明されたのです。
TikTokの情報収集には「選ぶストレス」がない?
Instgaram同様、TikTokにもハッシュタグを検索する機能はありますが、TikTok検索特有の特徴は圧倒的な「受け身型視聴」とサジェスト機能にあります。
ひとつめの「受け身型視聴」に関して、TikTokは他のSNSにくらべ、ユーザーに選ぶストレスを感じさせない設計づくりに長けています。
顕著なのはアプリを開いた瞬間です。Instaramはフォローしているアカウントのストーリーとフィード投稿の2種類が同時に表示されますが、TikTokは強制的に全画面でおすすめの投稿を視聴させる設計になっています。これが脳に負担を強いる原因です
これによってユーザーが不自由を感じるかと言えばそうではありません。
むしろ、大量にあるコンテンツの中からどれかを選ぶというストレスを軽減できるため、ユーザーにとっては非常に「楽」な視聴方法になるのです。
その上コンテンツはアルゴリズムに基づき、本人が好きそうなものが流れてくるため、必然的にアプリの滞在時間も伸びます。
受身形の検索行為「Tokる(トクる)」
さらにこの「選ぶストレス」の軽減に、TikTokは検索欄にサジェスト機能を設けています。
検索ページに、「顔やせ 筋トレ」などあらかじめ複数キーワードが表示されるようになっています。下欄にはTikTok特有のmeme(ミーム)トレンドも表示されるようになっており、選ぶストレスを感じる前に「自然と見てしまう」設計になっています。
TikTokで動画を投稿する行為は、専門用語で「Tikる(ティクる)」と言われているのですが、この受け身型視聴を中心としたTikTok特有の一連の検索行為は、総じて「Tokる(トクる)」と言うことができるのではないのでしょうか。
あのTikTokに家事コンテンツが急増中
この「Tokる」の流れがきている証拠として、TikTok上のコンテンツの種類も大幅に変わってきていることがあげられます。
最近のTikTokでは、若者向けのユニークなコンテンツの他に、主婦や自炊をする社会人向けの家事コンテンツのバズも増えています。
日常生活の小さなノウハウや生活の知恵、アイテムの裏技的使用法の動画や商品のアレンジ法など、Z世代より上の世代の情報収集ニーズに応えるコンテンツが多く見られるようになってきているのです。
SNS運用をサポートさせていただいている「MATE(わたしの節約)」でも、400万回以上再生されたいわゆるバズ投稿も増えてきました。キッズや若年層向けのSNSというイメージ根強いTikTokですが、最近は家事や育児コンテンツのニーズをひしひしと感じています。
最近の運用を通して、特に下記のようなポイントを押さえればバズを生み出しやすくなることがわかってきました。
・レシピ動画は人物を含めて映すのではなく、ユーザーが実際に料理する手元に視線がいくように真上からの撮影にする
・購入品の紹介動画には冒頭に「〇〇で買わないと損する〜選」といったフレーズやランキング形式を提示する=最後まで閲覧してもらいやすい
・最初の0.5秒で動画が最後まで見られるかが決まる。サムネイルに持ってくるワードや写真にこだわり、とにかく動画のはじめの惹きでユーザーの心をつかむ
YouTubeとの違いは「手軽さ・連続性・飽きない」
動画プラットフォームとして有名なのはYouTubeですが、TikTokとの違いはその手軽さにあります。
TikTokは短尺動画をメインとしており、5秒から最大でも10分までのコンテンツしかアップされていません。この短い尺に情報が集約されるため、TikTokに集まるコンテンツは必然的に簡潔でわかりやすい情報になるのです。動画の尺が統一されておらず、全画面で見るにはスマホを横にしなければいけないYouTubeとはこの点でも大きく違います。
最近では長尺の動画に耐えきれない若者も増えており、15分程度のYouTube動画でさえも倍速で視聴するユーザーも増えてきています。タイムパフォーマンスを追求している世代にとっても、簡潔に情報収集できるTikTokの方が肌に合っているのでしょう。
これによって、Z世代ユーザーの多いTikTokであっても年齢相応の情報価値を届けることができれば、より広い年齢層のユーザーにリーチすることがわかってきました。
Tokるを中心に、今後は世代に限らず「情報としての動画」を検索する流れも本格的になってくることが予想できます。