「韓国の音楽番組」に日本のアーティストの出演が増えている理由 朝倉未来
BTSの活躍が象徴するように、K-POPはいまや世界規模のコンテンツに成長している。その躍進を支えるものの1つと言われるのが「YouTube」だ。YouTubeをフル活用する韓国の音楽番組の戦略と、そうした番組に日本のアーティストが出演することが増えている背景について、
古くは黒澤明監督の映画やその出演俳優、宮崎駿監督のジブリアニメ映画や数々の日本アニメ、ジャッキー・チェンやウォン・カーウァイ監督など、世界的評価を受け、現在も絶大な人気を誇るアジア発のエンタメコンテンツは数多く存在している。そうしたものの中でも、映画『パラサイト 半地下の家族』『ミナリ』、ドラマ「イカゲーム」、そしてBTSの活躍により、欧米圏から韓国エンタメ界への注目度と専門家からの評価が飛躍的に高まっていることは、ここ数年の国際授賞式のラインナップだけを見ても明白だ。
そんな韓国エンタメコンテンツの普及、特にドラマや映画の世界的ブームの情勢に欠かせなかったのが、190カ国以上(2022年9月時点)で視聴できるNetflixや、加入者数の増加が著しいDisney+などの配信プラットフォームだが、K-POPにとってのそれは無料の配信プラットフォームであるYouTubeだろう。
K-POPが開拓したYouTube戦略
K-POPのMVや、事務所制作のオリジナルコンテンツなどは、現在のブームよりかなり前からYouTubeで無料公開されている。著作権、肖像権に厳しすぎないため、ファンが様々な言語の字幕をつけた動画やいわゆる「ファンメイド動画」と呼ばれるファンが編集した動画がYouTube上に数多く存在していることが、K-POPの世界的なブーム醸成の鍵となったことは多くの方がご存じの通りだ。
つまりK-POPアーティストや所属事務所にとって、動画コンテンツは世界的な人気拡大を目指す際に必須コンテンツであり、100カ国以上の国で無料視聴でき、全世界に23億人以上のユーザーがいるとされるYouTubeは欠かせないプラットフォームなのだ。
BTSは自身のYouTubeチャンネル「BANTANTV」でMV以外にもさまざまなオリジナルコンテンツを配信している。
現在YouTubeには、MV、オリジナル動画、ファンメイド動画、K-POPアーティストを活用した企業コラボレーション動画や、韓国で放送している歌番組のパフォーマンス動画など、K-POP映像コンテンツのレッドオーシャンとも言えるほど多くのK-POP関連動画が毎日、毎時間、世界中でアップロードされ、世界中で視聴されている。
一方、日本においても、コンテンツの供給側に著作権や肖像権についての意識の変化が見られるようになったことで、MVがフルでアップされることは当たり前になった。しかしMVをアップしたからと言って、既存のファン以外に見てもらうことは容易ではなく、世界中でアップされた数えきれない動画の中から選ばれるには工夫も必要だ。
では例えば、世界市場を狙いたい日本のアーティストがいた場合、どうするのか? そんな疑問に対する答えの1つとして、「韓国の音楽番組に出演すること」が挙げられるのではないだろうか。
YouTubeをフル活用する韓国の音楽番組
韓国と日本の歌番組の最も大きな違いと言えば、放送されている音楽番組の数とYouTubeに対する考え方だろう。韓国では「M DOUNTDOWN」「MUSIC BANK」「SHOW!MUSIC CORE」「人気歌謡」「THE SHOW」「SHOW CHAMPION」「Simply K-POP」といった7つの音楽番組が放送されている(「Simply K-POP」はインタビューが英語で進行される英語国際放送局の番組)。
それらの番組の多くでは、生放送直後に公式YouTubeチャンネルで放送されたものと同じパフォーマンス映像をアップしており、アーティストによって差はあるが、再生回数も多い。ちなみに、BTSの2017年9月の「M COUNTDOWN」でのカムバックステージは1.3億回再生されている。
また、「チッケム(韓国語で“直接カメラ”の意味)」と呼ばれる、パフォーマンス中に1人のメンバーのみを追った映像や、4Kや8Kの映像まで様々な映像がアップされている。
2022年9月20日時点で、各音楽番組のパフォーマンス映像がアップされるチャンネルの登録者数は、「M DOUNTDOWN」のMnet K-POPが1980万人、「MUSIC BANK」のKBS WORLD TVが1830万人、 「SHOW!MUSIC CORE」のMBCkpopが1000万人、「人気歌謡」のSBS K-POP × INKIGAYOが694万人、 「THE SHOW」のThe K-POPが240万人、「SHOW CHAMPION」のALL THE K-POPが673万人(※日本では本放送の映像とは異なるチッケム映像のみ視聴可能)、「Simply K-POP」のARIRANG K-POPが190万人だ。
これらチャンネルにアップされている音楽番組のパフォーマンス映像を見ると、韓国語だけでなく英語のコメントが非常に多いことがわかる。英語でさまざまな国のファンがやりとりし、K-POPファンの交流の場にもなっているようだ。1つのパフォーマンス動画を見ると、関連動画として他のアーティストのパフォーマンス動画や、他の音楽番組の映像がレコメンドされることが多く、YouTube上で“偶然見かけたことでハマるきっかけにつながる”可能性も大いにあると言えるだろう。
日本のPOPアーティストが世界のファンとつながるには
一方日本では、TVerで民放TV局の多くの番組が見逃し配信されているが、音楽番組の配信は基本的に行われていない。また、TVerは海外からはアクセスできず、TV局や番組公式YouTubeチャンネルでもアップされていないのが現状だ(TBSの「CDTV ライブ! ライブ!」に関しては、韓国事務所所属アーティストのパフォーマンスのみ、アーティスト公式YouTubeでアップされている)。
つまり日本では、リアルタイムか録画で音楽番組を見てくれる自身の既存ファンか、同じ回に出演した他のアーティストのファンにしかパフォーマンスを見てもらうことができない状態だ。もちろん、日本の数少ない地上波音楽番組に出演できてこそ、日本で人気があるアーティストだと言えるという意見も理解する。しかし、前述した世界市場を狙いたい日本のアーティストがいた場合には、違ったアプローチが必要になってくるのは当然だ。
今、世界でK-POPが1つの音楽ジャンルとして注目を浴びているのは事実だ。何を持ってK-POPと定義するかは一旦置いておいて、K-POP関連コンテンツのみがアップされているにもかかわらず、チャンネル登録者数が2000万人に迫る勢いのMnet K-POPやKBS WORLD TV 、1000万近いMBCkpopなどのYouTubeチャンネルでパフォーマンス動画がアップされること=韓国の音楽番組に出演することは、アジアから世界のファンにつながる手段として非常に魅力的ではないだろうか。
そんな韓国音楽番組のYouTubeチャンネルでパフォーマンス動画アップされることを通じて、少しずつではあるが世界でファンを増やし始めているのが、M COUNTDOWNを放送するチャンネルMnetの運営会社CJ ENMと吉本興業によって設立された事務所に所属するJO1と、楽曲はもちろん、SNSなどのコミュニケーションも英語で行っている全員日本人で構成されたグローバルガールズグループのXGだ。
ちなみに、韓国の大手芸能事務所であるJYPエンターテインメントに所属するNiziUと、JO1の後輩INIも、K-POPアーティストが多数出演するイベント「KCON」に出演しているが、パフォーマンス動画がアップされているのは、チャンネル登録者数が95万人のKCON Officialチャンネルなので、前述の人気音楽番組のチャンネルと比べるとその影響力の差は否めない。
日本の音楽番組でK-POPアーティストが日本語で歌唱することが多いことや、2019年の夏にBTSが全編英語の「Dynamite」で英語圏のファンを急激に増やしたのと同様に、韓国の歌場組に出演する際には韓国語または英語での歌唱が必要になってくる。元々の日本語の歌詞の意味が伝わりきらなかったり、練習がさらに必要だったりと制約も出てきてしまうとは思うが、世界中の人にパフォーマンスを見てもらうために、この先JO1やXGのように韓国の音楽番組に出演したいと考えるアーティストも増えていくのではないだろうか。
日本を活動拠点にしながらも世界にチャレンジするアーティストが増えることは、日本の音楽業界にとっても悪いことではないはずだ。現在、アーティストを目指す多くの才能ある若者たちの中には、最初から韓国でのデビューを目指す人も多い。そんな彼ら、彼女らの選択肢として、「日本から韓国を経由して世界へ」というルートを選ぶ人が増える日が来るかもしれない。
コロナにより渡韓が容易ではなかったこともあり、2組とも出演回数はそこまで多くはないが、JO1は今年7月に韓国語曲を披露した「M COUNTDOWN」でのパフォーマンス動画で韓国人からのコメントが増え、タイ語や英語でのコメントも見られるようになっている。また、全編英語曲のXGは複数の韓国歌番組に出演し、英語圏ファンのコメントが特に多かったこともあり、逆輸入の形で日本のK-POPファンを中心に人気と知名度が上がっていると言えるだろう
反論論文は、ロベーツ論文で挙げられている同根語(cognate words)が少なすぎると指摘する。
同根語というのは、「起源を同じくする単語」のことだ。ある言語から分かれた娘言語たちは、いずれも共通した同根語を(二次的に失ったのでなければ)持っているはずだ、というのが比較言語学の基本的な考え方だ(生物学でいう原始形質/祖先形質にあたる……と思う。多分)。もちろん、偶然の一致とか、言語の場合は借用語とかがあるので、言語学的な検討を行って「これは祖語から受け継がれた同根語である」というのを確定させて、それをもとに言語の系統関係を判断していく。
しかしロベーツ論文は、ひとつ以上の語族でみられる同根語が317、2つ以上の語族でみられる同根語がわずか50、そして5つの語族で共有されている同根語はたったの2つに過ぎないという(Tian et al. 2022: 2)。思い出してほしいんだけど、ロベーツ論文はテュルク・モンゴル・ツングース・朝鮮・日琉の計5語族が同一の起源を持つと主張しているのね。なのに5語族で共有されてる同根語はたったの2ってどういうこと? って話になるでしょ。全然「トランスユーラシア語族」の証拠になってないじゃん。
っていうか、その50個の同根語リストの中には、ロベーツ氏自身が「これは借用語だよ☆」って書いてる単語が入ってるんだってさ。借用語は除くというのが比較言語学の基本なのに(借用語だと気づかずにリストアップしたならまだしも)借用語だとわかった上でリストアップするのヤバくない? そんなこと言ったら日本語が英語の親戚になっちゃうよ? 大丈夫?
反論論文の著者たちはこれに激おこぷんぷん丸になっていて、ロベーツ論文の「著者たちは彼ら自身の歴史的言語比較の原則を無視し、証拠を彼らの必要にあわせて歪曲している」(Tian et al. 2022: 3)とまで断言している。そりゃ、借用語混じりのたった数十の同根語で「トランスユーラシア語族は、ありまぁす!」って言われたらそう言いたくもなるわな。