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現在の市場環境や自分の能力を相対的に把握して   Ado

 

 

 

社員が会社を辞めるのは、なんらかの理由があるからだ。給料かもしれないし、人間関係かもしれないし、自身のキャリアを考えた結果かもしれない。ライフイベントに合わせた結果かもしれないし、その背景には人それぞれの事情がある。
しかし、中には「一度去った会社に戻ってくる人」もいる。「出戻り転職」と呼ばれる行動だが、この連載ではこの「出戻り転職」にフォーカスを当てたい。一度辞めたのに「戻りたい」と思える会社はそれだけ働く人にとって魅力的だと考えられるし、そこから「社員と会社の良好な関係性」を紐解けると考えるからだ。

「業務範囲が広すぎる……」

「だんだん自分の職種がわからなくなってきた……」

「このままがむしゃらに働き続けていて、いいんだろうか……」

そんな不安や不満を抱いた経験のある人は少なくないだろう。そして、その解消法はあまり語られることがない。結果、社員は退職を選び、ほかの会社へと転職していく──。

イタンジ株式会社(不動産賃貸業における課題をテクノロジーで解決するIT企業)で執行役員を務める永嶋章弘さん(37歳)も、かつてはそうした気持ちを抱き、実際に転職した1人だった。

しかしその後、彼は縁あってイタンジに復帰。「出戻り」を経験した者だからこそ、かつての自分と同じように「外の世界を見たい」「別の会社を経験したい」と思う若手社員に対して、伝えたい思いがあるようだ。

何度か転職し、最終的に出戻り転職

永嶋さんは2010年に筑波大学大学院を修了後、Webエンジニアとしてニフティ株式会社に入社。その後、2014年に創業期のイタンジに2人目の社員として入社。2016年に株式会社メルカリに転職し、2018年に執行役員としてイタンジに出戻りした。

高専出身で大学に編入し、大学院まで、ずっとコンピューターサイエンスを学んできました。なので、Web系の会社に入りたいと思い、いくつか受けたなかでいちばん最初に内定をくれたニフティに入社することにしました。

ですが、新卒の研修期間が終わったあと、ニフティが買収したばかりの会社に出向することに。『勢いのある若手が欲しいらしいから、永嶋がいいんじゃないかな』と送り込まれたんですよね。当時の自分は『とにかく成長したい!』と息を巻いていたんですよ(笑)。

出向先はSNS運用コンサルティングを行う会社で、当時10名ほどの小さな組織でした。WebエンジニアとしてSaaS開発をしながらも、いろんな業務を経験。突然オフショアのベトナム拠点の管理をすることになって、後輩と2人で数カ月間現地に滞在したこともあります」

出向は楽しかったが、予想外の影響もあった。3、4年が経過した頃に本社に戻るよう声がかかったのだが、ベンチャーライクな働き方がすっかり染み付いてしまい、組織として安定している職場を物足りなく感じるようになっていたのだ。

勢いのあるベンチャーに入社

ここで永嶋さんが出会ったのが、後に出戻り転職することになるイタンジである。

Wantedlyを見ていて創業間もないイタンジのことを知りました。資金調達をしたタイミングで勢いのあるベンチャーだなという印象も受けたし、なにより“部屋探しで発生する不便さを解消する”という理念に共感したんです」

聞けばちょうどその少し前に、永嶋さんは婚約者と部屋探しをして、大きな不満を抱いていたという。

「当時はネットで知ることができる情報って限られていて、店頭にいく必要がありました。内見も1つひとつ手配してもらって、一部屋ずつ確認しないといけない。2人で暮らす部屋を探すのに毎週不動産屋を巡って、1日中動き回っていました。時間や労力がかかるし初期費用は高いし『不動産って、めちゃくちゃ不便なんだな』と感じていました。

しかも、同居を開始して2週間で婚約が破談となってしまって、またすぐに引っ越し先を探さないといけない状況に。となると、同じ不便さをまた繰り返さないといけず……そうやって、一方的に『不動産業界ゆるすまじ!』と思っていたんです(笑)」

こうして永嶋さんは2人目の社員としてイタンジに入社。Webエンジニアとして、不動産賃貸情報のポータルサイトの開発などに携わっていく。当時のイタンジはまさに世間が想像するベンチャー企業像そのもので、アグレッシブさやスピード感が求められた。

「例えば通常のサービス開発って、仲間集めをしたり法務チェックが入ったりさまざまな手順を踏んで形になるものなので、早くても設計だけで3カ月とか半年はかかるものだと思うんです。でも当時のイタンジは、構想から1週間や2週間でプロトタイプを作ってリリースしていて。それくらいスピードのある会社でした」

自身のキャリアに迷いが生じるように

ベンチャーならではの刺激的な環境に面白さを感じる一方で、次第に自身のキャリアには迷いが生じるようになった。ベンチャーゆえの何でもやる環境、会社の方向性が定まらないストレスが、自身のエンジニアとしての将来を狭めてしまうのではと考えたのだ。

「自分たちで不動産仲介業もやることになったので、不動産広告を出稿したり、物件の内見を担当したり、カスタマーサポートとしてお客様対応をしたり、これはエンジニアの仕事じゃないぞ……ということが増えてきました。当時の自分は『エンジニアとしてもまだまだスキルアップしたい』気持ちが強かったんですよね」

組織がまだしっかり出来上がっていないベンチャーは、どうしてもさまざまな業務を同時に抱える「何でも屋」な社員を生む。それを望んでいる人やゼネラリスト志向の社員はいいかもしれないが、スペシャリスト志向の社員にとってはストレスを覚える場合もある。

そんなモヤモヤを抱えるなか、永嶋さんはイタンジ入社から2年半が経過した2016年頃、メルカリへの転職を決意する。当初はエンジニアとして入社する予定だったが、面談を重ねる中でこれまでの業務範囲の広さやエンジニアリング以外のスキル面も評価され、プロデューサーとして入社することになった。

「きっかけは高専時代の友人がメルカリで働いていたこと。『一緒に働かない?』と誘ってもらったんです。職種は今でいうPdM(プロダクトマネージャー)に近い役割だったと思います。入社後はメルカリUSのヘルプページの開発マネージャー、内製化しているCSツールの開発など、いろんなサービスに携わりました。だんだんとイタンジにいた頃と似た立ち位置になっていましたね」

しかし、イタンジで感じていた「エンジニアとして成長しないと」という焦りは、少しずつ薄れていった。以前よりも大きな組織で、自分がより能力を発揮できる部分を知ることができたからだ。

「メルカリで身についたのは、プロジェクトマネジメントの能力でした。組織が大きければ大きいほど“調整力”って重宝されるようになるんです。セールス、エンジニア、デザイン、それぞれの業務に対するプロが集まっていたので、部署間をまとめるのが大変でした。個性が強いメンバーなので、辛辣なことを言われたりするときもありますし(笑)。でも、怒られたり文句を言われたりするからこそ、あえてこの辺の力を磨いていく人が少ないような気もしていて。今もすごく役立っている力です」

調整役と言うと、一見、スキルとしてはわかりづらいかもしれない。しかし、当たり前だがプロジェクトや個性的で主張の強い社員をまとめるのは、いつだって調整役なのだ。

イタンジの同僚に声をかけられる

その後、永嶋さんは2018年11月にイタンジに再び入社することになる。

「イタンジにいる同僚の2人からFacebookメッセンジャーで連絡がきて、『飲みに行こう』と言われたんです。田町の少し古い居酒屋で会って、『戻ってこないか?』と言われて、悩むことなく戻ることを決めました。黎明期を一緒に駆け抜けた、戦友たちの言葉は大きかったですね。

周囲からは『一回辞めているわけだし、会社の将来性は大丈夫?』『今の会社にいたほうがいいんじゃないの?』と心配されましたが、当時、イタンジは現在の親会社であるGA technologiesに買収されたタイミングで、会社の体制が大きく変わるタイミングだったこともあり、『やってみるか!』という気持ちになれたんです」

そして、役員として再入社。当時の社員数は約20人。2022年7月末時点では約170人まで成長しているが、それでもベンチャーであるのは間違いなく、ゆえに永嶋さんも以前と同じく「何でも屋」に近い状況になった。

【2022年10月6日12時15分追記】初出時、社員数に誤りがあったため、修正しました。

しかし、仕事への向き合い方は大きく変わっていた。

「役員として新規サービスの立ち上げを任されました。カスタマーサクセスも兼任したり、あとは親会社との細かい調整だったり……会社や事業に必要なことはとにかくやる感じですね。とにかく、数値化できないような仕事や細かい調整、名前がつかない雑務をどんどん拾っていく。

正直、周囲が想像している役員像とは違うかもしれません。でも、それが結構、自分には合っていたんだと気づきました。何かを突き詰めるスペシャリストというよりは手広くやっていく。ある意味、器用貧乏なんでしょうね」

こうして、以前はモヤモヤを抱えた自身の「何でも屋」な一面が、周囲を支え、引っ張っていくうえでの武器になることに気付いたのだった。

経営に近い立場に「出戻り」に思うこと

このような背景もあり、個人としては転職をして外の景色を見ることも重要だと考えてはいるものの、それでも経営に近い立場になってみると、思うことは少し違うようだ。

「自分は一度外に出ることによって、イタンジのよさを認識しました。例えば、こんなに自由でスピーディーな会社ってほかにはないな、とか。

でも、マネジメントする側の観点で言えば、やっぱり『社員が出ていかないに越したことはない』んです。出て行くのはなにかしら会社に対して満足していない部分があるということですからね。なので、辞めたいと言う人には『絶対うちのほうがいい環境だよ』とは伝えています。

ただ、若いメンバーが『外に出てみたい』と思うのも、当然の欲求だと考えていて。好奇心もあるし、意欲もあるわけですから。だからこそ、上に立つ者としては『外に出なくても、外を知る機会』をつくれたらいいと思っています。そこは今後の課題ですね」

そういう気持ちもあり、現在は会社と社員の信頼関係を築くことや、社員の帰属意識を高めることにも注力しているという。

「日々のコミュニケーションをマメに取ったり、チームの雰囲気を意識したり、会社として何かを達成したときに、個人の能力をきちんと評価するようにしています。『会社が個人を必要としている』という意思表示って、とても大事なことだと思うんですよ」

なお、そのような日々の努力が影響したのか、イタンジでは出戻りの事例も少しずつ増えているようだ。

「すでに出戻りしてきた社員がいたり、ほかにも今後、退職して3カ月で戻ってくる社員がいます。自分と同じように、辞めた後も同僚とつながっていたみたいですね。こちらとしては出戻りは大歓迎ですし、今後も少しずつ事例が増えていくと思います」

若い頃はエンジニアとしてのキャリアや自身の器用貧乏さに悩んだこともあった永嶋さんだが、「何でも屋」ゆえに身についたプロジェクトマネジメントの能力が、結果的に今の彼を支えている。

少なくない人が経験する悩みを抱き、自身のキャリアに昇華した彼だからこそ、一度会社を離れた若い社員たちの気持ちを理解したうえで、爽やかな笑顔で受け入れていくのだろう。

「社内失業者」という言葉をご存じだろうか。社内失業とは、労働者が正社員として企業に在籍しながら、仕事を失っている状態を指す。2011年の内閣府調査によれば、全国の労働者の8.5%にあたる465万人が社内失業者に該当するという。2025年には500万人に増えるという調査結果もある。もはや他人事ではない。多くの企業や個人も心当たりがあるのではないだろうか。

社内失業者が生まれる理由の1つに、該当社員の能力不足があげられる。能力不足というと持って生まれたスキルが足りないと思われがちだが、社内失業者の年代別割合を見ると50代で急激に生まれていることが調査結果により明らかになっている。さらに詳しくみていくと、一般社員クラスに多いことがわかった(エン・ジャパン調べ)。

社内失業者は本当に能力不足なのだろうか。一連の問題に対して、社内失業者を生まないためのヒントをひも解いていきたい。

機械的組織から、「個」の集合体へ

企業規模が大きくなればなるほど、社内失業者がいる割合が増えることも判明している。なぜか。それは、企業規模が大きくなればなるほど、“隠れられる場所”ができるからと考えられる。

一方、大企業でも社内失業者が生まれにくい企業も存在する。そうした企業は、組織を小さく分割し、“隠れられる場所”を作らないようにしている。例えば、チームを5人体制にすれば、隠れられる場所はなくなる。必然的に自分も表に出て行動するしかなくなるのだ。

近年、組織のパラダイムが変化している。一昔前は、組織は機械的だった。なすべき目的があり、明示された職務内容でチームメンバーを集める。チームメンバーがやるべきことをやる、それで結果が出ていた。しかし、現在は機械的組織では行き詰まりを感じる場面が多く見受けられる。なぜなら、組織や会社を取り巻く環境の変化が速すぎるからだ。

現代では、従業員それぞれが自分の人生の目標と、現場のリアルな情報を踏まえて意思決定をし、生き生きと働くことが勘所である。経営陣には、組織を機械的に管理するということから、より「個」の力を爆発させるような文化づくり、制度づくり、コミュニケーションへと変化させることが求められている。

では、経営陣は具体的にどのように社内失業者に働きかけていくべきなのだろうか。

マネジメント層にできることは3つある。1つ目は、会社と個人の関係性が変化しているという“真実”をしっかりと伝えることだ。

振り返れば、出世コースから外れ窓際に追いやられた中高年層を「窓際族」と呼んだり、会社で仕事がなく暇を持て余してしまう若年層を「社内ニート」と言ったり、言葉は違えどいつの時代も社内失業者は存在していた。

異動や副業推進でモチベーションを上げる

それがここにきて再び注目を集める理由は、「終身雇用制度の崩壊」について語られることが増えてきたことにある。トヨタ自動車がいい例だろう。会社が終身雇用を保証できるかどうかわからない時代になりつつある今、「会社vs. 個人」ではなく「会社=個の集合体」という考え方にシフトチェンジし、どこへ行っても通用する人材になるよう自己啓発を促す必要がある。

2つ目が、キャリアを発展させる機会を作ることで、“異動”がそれに当たる。マネジメント層は、定期的に本人の意思を確認し、適材適所の人員配置を実践して業績向上や会社の発展に結び付けなければならない。それは、個のモチベーションを上げて社内を活性化させることにもつながる。副業が認められている会社であれば、副業を勧めてみるのもいいだろう。副業を通して、会社に有益な情報を得て、本業に相乗効果を生み出せる可能性もある。

3つ目は、キャリアパスを考える機会を与えることだ。「残りの人生を何に使うのか」「どういう人生を歩んでいきたいか」。こうした問いを会社でも投げかけることができれば、自分のキャリアプランとライフプランの両方を考えるよいきっかけになるのではないだろうか。

一方で、組織に属する「個」にもまた、社内失業者にならないために実践すべきことが3つある。

最も重要なことは、「自分の人生の目的」や「どういう人生を送りたいのか」をしっかりと考えることだ。これは人それぞれに異なるものであり、かつ正解はなく、比べられるものでもない。ただ、“考える”ということが大事なのである。

人生について考えるのが難しいのであれば、「自分が最も憤りを感じる社会課題は何か」と問いかけるのもいいだろう。目的や、やりたいことを棚卸しすることにより、モチベーションが湧いてくるのだ。

次に、現在の市場環境や自分の能力を相対的に把握しておいていただきたい。つらい現状でも、しっかりと見極めることが大切である。把握し見極めてこそ、自分が目指す方向と現状とのギャップが見えてくるからだ。そのギャップを埋めるために、どういうアクションが必要なのかがわかることだろう。人によっては転職かもしれないし、勉強かもしれない。いずれにしても次に取るべき行動が明らかになるだろう。

最後に、外に仲間を作ることをお勧めする。会社とはまったく異なるコミュニティーに属し、自分との相対的な違いを理解したり、仲間を作ったりするのもいいだろう。読書会や朝活など、今はさまざまなコミュニティーが存在する。自分が求めればいくらでもコミュニティーに入れるはずだ。気になるコミュニティーを見つけたらどんどん飛び込んでみてほしい。

筆者が事業リーダーを務める『グロービス学び放題』でも、コミュニティーの強化に力を入れている。コミュニティーへの参加は、モチベーションを保ったり、刺激を与え合ってキャリアをアップデートさせたりすることにもつながると感じているからだ。

どんな職種に就いても通用するスキル

一生続けられる職場や仕事はほとんどないと言われる現代において、押さえておきたいスキルがある。それは、営業、企画、オペレーション、どんな職種に就いていようと通用する汎用的なビジネススキルだ。

例えば、「3C分析」などが当てはまる。3C分析とは、自社、競合、顧客のそれぞれをリサーチし、戦略を考えるフレームワークで、主にマーケターが使う手法だが営業職にも応用可能だ。このようなフレームワークを繰り返し学び使うことで、どこででも通用する最低限のビジネススキルを身に付けられるようになる。

網羅性を持って学び続けていくことも有用だ。マーケティングを学んでいた人がファイナンスも学んでビジネスを拡大できたという事例もある。

とはいえ、今まさに社内失業で悩んでいる人の中には、新しく挑戦できる機会を自分自身で作ることが難しいという人もいるだろう。そういう人にお勧めしたいのが、今やっている目の前の決まりきったオペレーションを“少しだけ”変えてみるということだ。

例えば、営業メールの書き方を結論から書いてみたり、会議主催時にあらかじめアジェンダを決めて共有したり、まずは自分でできる範囲内で変えてみる。そうしたことを毎日少しずつ積み上げていくといいだろう。

これは、小さいながらも実はとても創造的な仕事である。伝わりやすい文章や、会議の主催の仕方を考えるうちに、「新しい知識やスキルを身に付けたい」「学び直したい」という意欲も湧いてくるだろう。変化が激しい時代の中で普遍的なスキルを学ぶ機会を、社内でぜひ作っていただきたいと思う。